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東京地方裁判所 平成元年(ワ)10719号 判決

原告

ザ リッツ ホテル リミテッド

右代表者

フランク ジェイ クレイン

右訴訟代理人弁護士

松尾和子

折田忠仁

右補佐人弁理士

井滝裕敬

被告

ザ リッツ ショップこと

能城律子

右訴訟代理人弁護士

荒木秀一

右補佐人弁理士

鈴江武彦

小出俊實

白根俊郎

主文

一 被告は、被告肩書地にある店舗の営業活動について、「THE RITZ SHOP」、「RITZ Inc.」、「RITZ」及び「株式会社 リッツ」の表示を使用してはならない。

二  被告は、別紙目録(一)ないし(四)の表示を、右肩書地所在の被告の店舗の看板、案内板、子供用被服、その包装箱、包装袋、下げ札、ラベル、領収書等に使用してはならない。

三  被告は、別紙目録(一)ないし(四)の表示を、前項記載の物品から除去せよ。

四  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

七  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項ないし第三項と同旨

2  被告は、原告に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告表示の周知性

(一) 原告は、一八九六年、ホテル王と称されるセザール リッツにより設立されたイギリス法人であり、一八九八年から、フランス共和国パリ市のヴァンドーム広場に所在する「RITZ HOTEL」との名称のホテル(以下「本件ホテル」という。)を所有し、これを経営しているが、本件ホテルは、設立当初から今日に至るまで、世界の超一流ホテルとして不動の地位にあり、確固たる名声を獲得し続けてきたものであって、世界的に著名である。本件ホテルは、マスコミからも極めて高い評価を受け、しばしば紹介されており、パリないし世界のホテル案内の刊行物においても、本件ホテルについて記載のないものは皆無であり、かつトップに記載されている。また、英和辞典の「RITZ」の項には本件ホテルないしはセザール リッツのことが掲載され、パリ、ロンドン、ニューヨーク等の大都市に「RITZ」の名を冠した大ホテルがあることが明記されているほどである。このように、「リッツ」又は「RITZ」は、原告が所有経営する「RITZ HOTEL」の著名な略称であって、これ自体が原告の営業であることを示す表示として、我が国においても広く知られているものである。

(二) 原告は、本件ホテル内のショッピングアーケードにおいて、「RITZ HOTEL」の名を付し、あるいは別紙商標目録(二)記載の本件ホテルの紋章部分を付し、スカーフ、バスローブ、バスタオル、ネクタイ等の衣料品をはじめ、シガレット・ケース、灰皿、ペン、ペンスタンド、ペーパーナイフ、拡大鏡、写真立て等の机上小物類、財布、パスポートケース、カード入れ、写真ケース等の革製品、時計、裁縫セット、ピルケース、キーホルダー、トランプ、日記帳等の小物類、スプーン、ボタン、ワイン・クーラー、グラス、紅茶茶碗、ジャム壺、花瓶等の食器、陶器、ガラス製品等の各種商品を販売して今日に至っている。なお、原告は、「RITZ PARIS」の文字を含む図形標章も基本標章ないし社章としても使用している。

これに加えて、原告は、我が国において、商標法施行令一条に定める商品区分の第一七類所定の全商品を指定商品として、別紙商標目録(一)記載の登録第一六〇八三一四号の商標権(以下「原告商標権(一)」といい、その登録商標を「原告商標(一)」という。)を有するほか、指定商品をフランス製のものに限定しているものの、その連合商標である別紙商標目録(二)記載の登録第二一六四九七二号の商標権(以下「原告商標権(二)」といい、その登録商標を「原告商標(二)」という。)を有しているが、右商標は、いずれも「PARIS」や「HOTEL」を含むが、前者は地名であり、後者は一般名称であるから、その特徴的な部分は「リッツ」又は「RITZ」にあるものである。なお、原告は、その他にも関連する登録商標を多数有している。

また、原告は、昭和六一年から、我が国において、インペリアル・エンタープライズ株式会社を通じ、同社が作成する商品パンフレット、広告を掲載した情報誌を利用して全国的に前記の各商品を通信販売し、その売上げも着実に伸び、原告の商品も我が国内で広く知られるに至っている。右各商品には本件ホテルの名称である「HOTEL RITZ」の表示が付され、右各商品は、その価格、パンフレットの体裁自体あるいは我が国において比較的経済的地位の高い者に対する通信販売に限定されていることからも、右各商品が高級品であって、高いステイタスを示すものであることを容易に知りうるものである。

そして、本件ホテルには、昭和五七年には、約一八〇〇名の日本人が宿泊しており、前年以前の宿泊客も過去一〇年間毎年一〇〇〇人は下らないという合理的な推測が可能であるうえ、右宿泊者以外にも、多数の日本人が本件ホテルの名称に魅了されて本件ホテル内のショッピングアーケードを訪れたことが推測され、今日のフランス国への日本人旅行者及び本件ホテルの日本人宿泊客が著しく増加していることと併せ考えると、本件ホテルの著名な略称である「リッツ」又は「RITZ」は、原告の商品であることを示す表示としても、わが国において著名であったものということができる。

(三) 以上の結果、「リッツ」又は「RITZ」の表示(以下「原告表示」ともいう。)は、欧米はもとより、我が国においても、昭和五六年のはるか以前から、原告の略称として、広く一般的に、その営業ないし商品を指すものとして認識されていたものであるが、遅くとも昭和五六年二月当時には、我が国内において周知なものとなっていたものであり、仮に、これが認められないとしても、現時点において周知であることは明らかである。

2  被告の営業表示及び商品表示

被告は、昭和五六年二月一九日から、我が国の一流ホテルである東京都千代田区紀尾井町四の一所在のホテルニューオータニの本館二階において、「THE RITZ SHOP」の名称のもとに小売店舗(以下「本件店舗」という。)を開設して、手作り又はヨーロッパ諸国から輸入した子供用被服、靴、おもちゃなどの小物類を販売しているが、自己の営業を示す表示として、「THE RITZ SHOP」のほか、「RITZ」、「RITZ Inc.」及び「株式会社 リッツ」の表示をも使用し、また別紙目録(一)ないし(四)の表示を、本件店舗の看板及び案内板に使用している(以下、これら被告の使用している表示を「被告表示」ともいう。)。

被告は、被告表示を、取扱商品である子供用被服、その包装箱、包装袋、下げ札、ラベル、領収書等に使用している。

被告は、被告表示を使用するに際し、しばしば「RITZ」の部分を強調してそれ以外の部分とは異なる色、大きさを使用し、あるいは光源を用いて、右店舗の入口に「RITZ」の文字のみが表示されるようにしている。

3  原告表示と被告表示との混同

被告表示は、その要部が原告表示と全く同一である。すなわち、被告表示のうち、「RITZ」については、原告表示と全く同一であり、「THE RITZ SHOP」については、「THE」は定冠詞であり、「SHOP」は一般名称であるから、その要部が「RITZ」にあり、「RITZ Inc.」については、「Inc.」が株式会社を意味する語句であるから、その要部が「RITZ」にあり、「株式会社 リッツ」についても、株式会社は一般名称であるから、その要部が「リッツ」にあることは明らかである。

被告は、右の被告表示を被告の営業及び商品であることを示す表示として使用して、我が国屈指の一流ホテルであるホテル ニューオータニの中において、店舗を開設し、ヨーロッパ諸国からの輸入品を多く取り扱い、これを含んだ小物類を販売しているものであるが、取扱商品は、いずれも原告商標権(一)、(二)の指定商品の範疇に入るものであり、被告表示は原告商標(一)、(二)に類似するうえ、右のような店舗の立地条件、位置、状況等を考慮すると、被告の右行為は、原告が享受すべき「RITZ」の名称から生じるグッドウィルを不当に利用するものであって、一般世人をして、原告と被告との間に、原告が被告の営業を許諾し、援助しているかのような誤認を生じさせ、あるいは、被告の商品が原告の商品と同様、高品質の一流のものであるとの誤認混同を生ぜしめるものである。

4  被告の故意過失

被告は、「RITZ」の名称を使用して本件店舗の経営をするに際し、「RITZ」が原告の営業表示または商品表示であることを知り、又は少なくとも過失によりこれを知らなかったから、被告の前記行為により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

5  損害

原告は、本件標章を自己の信用・評判を示す無形の財産権として享受し、これにより得られるあらゆる利益状態の主体として、本件標章の顧客吸引力を享受する地位を有しているところ、被告標章の使用により、被告の商品が原告の商品であると誤認され、あるいは被告の営業が原告の営業活動であると誤認され、その結果、原告が、従来、その営業や商品について一流であるとされ、あるいは高いステイタスを示すものとしている評価を損なわれ、その営業上の信用・評判を不当に侵害されたものであり、この損害を金銭により評価すれば、少なくとも金五〇〇万円を下らない。

また、原告は、本件訴訟の提起のための弁護士費用、調査費用、証拠の取寄せ、翻訳費用などのため、少なくとも金二〇〇万円の費用を要しているが、右の費用も、相当因果関係にある損害である。

したがって、原告の損害は少なくとも七〇〇万円を下らない。

6  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項一号、二号に基づき、請求の趣旨記載の被告行為の差止めを求めるとともに、同法一条の二、民法七〇九条に基づき、右損害金合計七〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成元年一〇月一四日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が、ロンドンにおいてホテル営業を行うイギリス法人であり、ホテル営業に付随して、昭和六一年から、我が国において、インペリアル・エンタープライズを通じて商品の通信販売を行っていることは認め、その余は不知。原告表示が、原告の営業又は商品であることを示す表示として周知であるとの主張は争う。

フランス国にある本件ホテルが著名であるとしても、原告はロンドンにおいてホテル営業を行うイギリス法人であって、本件ホテルの著名性に藉口しているにすぎないのみならず、我が国においてはホテル営業をしたことがなく、ホテルサービスの提供という営業行為を全く行っていないのであるから、我が国内において周知であるとの根拠たりえないものである。

原告は、本件ホテルが世界的に著名である旨主張するが、右にいわゆる「世界的」に著名という意味は極めて曖昧であり、これをもって、我が国において著名であるとの主張に直ちに代えうるものではないし、「RITZ」又は「リッツ」の表示は、「HOTEL」又は「ホテル」を加えて一連のものとして呼称されることにより、原告を指すものと認識される可能性を生ずるとしても、「RITZ」又は「リッツ」のみでは、我が国においては原告の著名な略称ということはできない。

また、我が国から外国旅行に出る者のための案内書や冊子の類に紹介されたとしても、これらは宣伝広告の見地から掲載されているにすぎないのであり、そのことによりたやすく広く認識されているとすることも早計であるといわなければならないし、「HOTEL RITZ」や「RITZ」が単に大英和辞典に掲載されているとしても、そのような辞典に親しみ、その内容を認識する者の数は極めて限られるから、そのことのみで我が国における周知性を認める根拠とはなりえない。

次に、原告は、原告商標(一)、(二)について、原告が商標権を有する旨主張するが、原告は、原告商標(一)について、我が国において、何らの商標権を有するものではないし、右各商標は、いずれも本件標章と類似しない。すなわち、原告商標(一)の出願人はリッツ(パリ)ホールディング リミテッドである。また、その構成は別紙商標目録(一)のとおりであり、また原告商標(二)の構成は別紙商標目録(二)のとおりであって、指定商品についてフランス製に限定されているものであるから、右各商標は、いずれも指定商品をフランス製またはパリ製のものを販売する場合に限って使用されるものというべきであり、したがって、「RITZ」は、「RITZ PARIS」あるいは「PARIS RITZ」として用いられるべきものであるから、本件における「RITZ」標章には類似しないというべきである。

日本人宿泊客がパリ旅行で本件ホテルを知ったとしても、そのことが直ちにロンドンにおける原告のホテル営業を我が国内において著名にするものではない。

ところで、我が国において、「RITZ」の文字を含む表示を用いて営業しているものは、以下のとおり、ホテル営業であるとホテル営業以外の営業のものであるとを問わず、多数存在するのであり、また、本件標章に類似した標章も多数登録されているから、本件標章は、その識別力が減殺され、希釈化されており、したがって、原告の営業または商品を示す表示として、我が国内において周知性、著名性を取得するに由ないものとなっているというべきである。

すなわち、「RITZ」を名称として使用しているホテルとしては、海外では、別紙一覧表記載のとおり、多数のホテルが「RITZ」標章を使用している。このうち、代表的なものを指摘すれば、次のとおりである。

(1) マドリッドのリッツ ホテルは、英国法人トラスト ハウス フォルテの所有であるが、その名称に「RITZ」を使用している。

(2) リッツ カールトン ホテルも、その名称に「RITZ」を含んだものを使用している。また、同ホテルは、登録第二〇四六〇五八号商標「RITZ CARLTON」の商標を登録している。

(3) バルセロナのリッツ ホテルもその名称に「RITZ」を使用している。

(4) 台湾、香港、南アフリカのケープタウンの各リッツ ホテルについても、「RITZ」を使用している。インドのリッツ ホテルも同様である。

また、国内でも、「ホテル ゴーフルリッツ 神戸」や、藤沢市柄沢所在の「ホテル リッツ」などを指摘しうる。

本件商標に類似した商標としては、「HOTEL RICH」または「ホテルリッチ」などの標章を用いるホテルがある。

そのほか、類似の商標としては、登録第一四六四四六五号商標「LIZリッツ」、登録第〇六六八九〇五号商標「チョコリッツ」の商標がある。その他にも、登録第一八七四〇六〇号商標「リッツ」、同第二二二三一〇三号商標「サンリツ SUNRITZ」、商標出願広告平三―一三八九号「リッツRITU」、登録第一〇四三五九五号商標「リッツ」、登録第〇六六六九七二号商標「R/RITZ」、登録第一〇七四五五八号商標「RITS」、商標出願広告昭六〇―二二七八三号「RITZ CLUB」、商標出願広告昭六〇―二二七八三号「GAUFRE RITZ/ゴーフルリッツ」がある。

また、菓子メーカーの米国法人であるナビスコは、「RITZ」標章を使用し、登録第〇九九七二八三号商標「リッツ」、登録第〇四一五六六号商標「RITZ」、登録第一六四二九一七号商標「リッツメイトRITZMATE」、登録第〇九七三四五三号商標「RITZ」、登録第一三六七四二六号商標「RITZ」、登録第一一九八一七三号商標「RITZ」、登録第一二五四一五八号商標「RITZ」、登録第一二三〇五七〇号商標「RITZ」を有している。

その他、電話帳を紐解けば、リッツを使用しているものは多数見出すことができ、古くから現在に至るまで、原告以外の営業主体が、リッツないしRITZの標章を使用している例は極めて多数になることも明らかである。

また、原告が、本件標章を利用する多数の独立した営業主体に対して、本件標章の使用を許諾し、または許諾を得るよう交渉しているとしても、そのことが、かえって、第三者に対する関係では区別標識としての識別力を減殺し、著名性の成立を妨げることになるものというべきであるから、以上のような標章をもって、原告が本件標章を独占的、排他的に使用することを主張することは許されるべきではない。

2 同2の事実のうち、本件店舗が我が国の一流ホテルであるホテルニューオータニの本館の二階に位置し、その名称が「THE RITZ SHOP」であること、被告は、昭和五六年二月一九日から、同店舗において、輸入した小物類を販売し、ヨーロッパ諸国からの輸入品も取り扱っていることは認め、その余の事実は不知。

なお、被告は、営業主体の区別標識として「THE RITZ SHOP」を使用しているにすぎず、「リッツ」や「RITZ」を使用したことはない。

3  同3の事実は否認する。

原告が主張するように、本件ホテルが世界的に著名で、超一流であり、高い品位とステイタスを備えた世界の代表的ホテルであるとすれば、我が国において一流ホテルであるホテルニューオータニの中に原告の店舗を出店することなどおよそ考えられないことであるし、また、原告は、我が国においてはホテル営業をしたことがなく、ホテルサービスの提供という営業行為をまったく行っていないのであり、被告は、ホテル ニューオータニの一角において、狭い店舗で小物類等を販売する一個人であるから、原告と被告とは業態を全く異にし、競業関係にないものというべきであり、何人も両者を直ちに明確に区別し、認識することが可能であって、誤認混同の虞は全くないというべきである。

更に、販売態様についても、原告の営業活動は通信販売によるものであるのに対し、被告の営業活動は店頭販売であるから、その形態が全く異なっているのであって、営業の主体または商品の出所について誤認混同する虞はない。実際上も、被告は、昭和五七年ころから長期に渡って営業しているにもかかわらず、その間、原告と誤認混同された事例は全くない。

4  同4の事実は否認する。被告は、自己の氏名の「律子」の愛称である「りっつ」の呼称をそのまま店名として選択使用したものにすぎず、原告の標章であることなどまったく認識していなかったものである。また、「りっつ」をドイツ語風に表記すれば「RITZ」となるのであって、何ら非難されるいわれはない。

5  同5の事実は否認する。前記のような原告と被告の営業形態、規模等に照らしても、被告の営業が原告のホテルサービスの提供という営業行為に関し、営業上の利益を害する虞はありえないものである。

三  抗弁(不正競争防止法二条一項四号所定の先使用権)

被告は、昭和五六年二月一九日から、善意で、本件店舗の名称として「THE RITZ SHOP」を使用するなど、被告標章を使用して本件店舗において小物類等の販売を継続してきたものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、被告が「THE RITZ SHOP」の使用につき善意であったことは否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一(原告表示の周知性)

1  請求原因1の事実のうち、原告が、ロンドンにおいてホテル営業を行うイギリス法人であり、ホテル営業に付随して、昭和六一年から、我が国において、インペリアル・エンタープライズ株式会社を通じて商品の通信販売を行っていることは当事者間に争いがない。

〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件ホテルは、一八九八年六月にオープンしたホテルであるが、建物や家具、照明器具、食器その他の調度品の優美さ、豪華さにおいて、またきめの細かいサービス等により、オープン当初から極めて高い評価を受け、世界の王侯貴族、大富豪、有力政治家、著名作家、有名映画俳優等々の世界的な著名人が宿泊利用し、昭和天皇も、昭和四六年秋にヨーロッパ各国を歴訪された折り、本件ホテルに宿泊されている。

(二)  本件ホテルは、「昼下がりの情事」(一九五八年ころ一般公開)、「巴里のアメリカ人」(一九五一年ころ一般公開)及び「雨の朝巴里に死す」(一九五五年ころ一般公開)の映画の舞台となったが、その他にも著名な映画の舞台として、あるいはその背景の一部として、しばしば使用されている。

(三) 本件ホテルにおいては、その後本館と別館との間の連絡通路に宝石、衣類等の高級品を販売・展示する店舗が多数配置されるようになり、現在では、カルティエ、シャネル、ダンヒル、ラコステ、ニナ・リッチ等世界的に著名なデザイナーの高級品店などが軒を連ねている。原告も、このような店舗において、「RITZ HOTEL」の名を付し、あるいは別紙商標目録(二)記載の本件ホテルの紋章部分を付すなどして、スカーフ、ネクタイ等の衣料品をはじめ、シガレット・ケース、財布、時計、紅茶茶碗、ガラス製品等の各種商品を販売して今日に至っている。

(四)  株式会社研究社が昭和五五年一一月に発行した「新英和大辞典(第五版)」の「RITZ」の項には、本件ホテルないしはセザール リッツのことが掲載され、パリ、ロンドン、ニューヨーク等の大都市に「RITZ」の名を冠した大ホテルがあることが明記されており、俗語的用法として、優雅で贅沢な暮らしをする意あるいは見せびらかすという意を持つものとしても紹介され、株式会社小学館が昭和五六年四月に発行した「コンパクト版英和中辞典(初版第四刷)」にも同様の趣旨の記載がある。また、平成元年四月二三日の朝日新聞日曜版の「いんぐりっしゅ散歩」の欄にも、「豪華な」を意味する単語として「Ritzy」との語が紹介され、本件ホテルが語源となっていると記載されている。

(五)  昭和四九年二月に発行された海外旅行ガイドブックである「海外ガイド②〈フランスⅠ〉パリ編」には、本件ホテルは「リッツ」と略称されて、パリで最も有名なホテルであり、宿泊客は世界的に著名な人が多いと紹介され、昭和五七年二月に発行された海外旅行ガイドブックである「ブルーガイドブック第七巻パリ編」には、「リッツRITZ」の項が設けられ、パリの最高級ホテルとして本件ホテルが紹介されており、同項では本件ホテルは「リッツ」と呼称されている。また、昭和五〇年四月、同年八月、同年一二月、昭和五一年四月及び同年八月に各発行された「世界ホテル案内」は、世界中のホテルの宣伝広告を兼ねてホテルの案内を目的とする刊行物であるが、本件ホテルを紹介しており、その後も同誌は本件ホテルを紹介している。本件ホテルは、昭和五七年六月に発行された「世界画報六月号」の「やっぱりパリは巴里」という特集中で世界的な最高級ホテルとして紹介され、昭和五五年一月に発行された「世界の一流ホテル」においても、本件ホテルはヨーロッパの一流ホテルとして紹介されている。更に、本件ホテルは、昭和五七年九月に発行された「パリと近郊の本」においても、「リッツ」と表記されたうえ、世界に冠たる名声の高さは衆知である旨紹介されている。そして、本件ホテルは、日本交通公社が平成元年に発行した「世界のホテル二〇〇選」の「世界のホテルベスト30」の記事欄では、世界第八位のホテルとしてランクされている。

(六)  本件ホテルは、昭和五七年には約一八〇〇名、昭和五八年には約二六〇〇名、昭和五九年には約三七五〇名、昭和六〇年には約四〇〇〇名、昭和六一年には約四五〇〇名、昭和六三年には約六一〇〇名、平成元年には約一万名の日本人が宿泊しており、昭和五七年以前の宿泊客も合計すれば相当の数に達する。右宿泊者以外にも、多数の日本人が本件ホテルのショッピングアーケードを訪れている。

(七) 原告は、昭和六一年から、我が国において、インペリアル・エンタープライズ株式会社を通じ、同社が作成する商品パンフレット、広告を掲載した情報誌を利用して全国的にスカーフ、セーター等の衣料品をはじめ、シガレット・ケース、財布、時計、紅茶茶碗、ガラス製品等の各種商品を通信販売しており、これらには、「HOTEL RITZ」あるいは別紙商標目録(二)記載の本件ホテルの紋章部分が付されている。

(八)  原告商標権(一)の商標は、昭和五四年一一月、リッツ(パリ)ホールデイングス リミテッドにより登録出願をされ、昭和五七年一一月に公告され、昭和五八年八月に登録第一六〇八三一四号として登録されたが、原告は昭和六一年一月一三日同社からその譲渡を受けた。また、原告は、昭和六〇年三月、原告商標権(二)の商標について商標登録出願をし、原告商標権(一)の連合商標として、昭和六三年一二月に公告され、平成元年八月に登録第二一六四九七二号として登録された。

(九)  特許庁は、原告以外の者の「リッツ」又は「RITZ」からなる商標の登録出願及びこれらを構成中に含む商標の登録出願に対し、登録異議の申立てについての決定において、本件ホテルがパリの一流のホテルであり、世界の代表的ホテルであること、本件ホテルが「リッツ」又は「RITZ」と略称されていることを理由として、あるいは、「リッツ」又は「RITZ」が原告の著名な略称であると同時に、原告が構成するホテル・グループの著名な略称として、我が国でも知られているなどとして、原告の異議を理由があるものとしている。

(一〇)  原告を設立したセザールリッツ及びその後継者は、その後、ロンドン、マドリッド、ニューヨーク、モントリオール、ボストン、リスボン等世界の各地にリッツの名を冠したホテルをオープンし、各ホテルの経営のため、それぞれ個別の会社を設けたが、これらの会社は、本件ホテルを中心として、いわゆるリッツ グループを構成し、「RITZ」表示が有する世界的な名声を享受し、あるいはこれを維持するため、原告と協力ないし提携関係を結んでいる。

以上の事実が認められ、右認定に反する趣旨に帰着する〈書証番号略〉及び〈書証番号略〉の各記載部分は、前掲各証拠に照らし、採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、本件ホテルの略称である「リッツ」又は「RITZ」は、原告の営業及び商品たることを示す表示として、我が国においても、昭和四〇年代、どんなに遅くとも被告が被告表示の使用を開始した日の前日である昭和五六年二月一八日には、少なくともホテル業者、ホテル内に店舗等を有する販売業者、国際的なホテルを利用する人々等のホテル関係者の間では、広く知られていたと認めることができる。

2  被告の主張について

被告は、フランスのパリにある本件ホテルが著名であるとしても、原告はロンドンにおいてホテル営業を行うイギリス法人であって、本件ホテルの著名性に藉口しているにすぎないのみならず、我が国においてはホテル営業をしたことがないから、我が国内において周知であるとの根拠たりえない旨主張するところ、これは原告が本件ホテルの周知性取得の主体たりえないと主張しているものと解されるが、本件ホテルを所有し経営する原告が本件ホテルの営業表示等の周知性を取得しうることはいうまでもないし、我が国内における営業が周知性取得の要件とされているわけでもないから、被告の右主張は理由がない。

被告は、我が国において、「RITZ」の文字を含む表示を用いて営業しているものは、ホテル営業であるとホテル営業以外の営業のものであるとを問わず、多数存在するのであり、また、「THE RITZ HOTEL」の標章に類似した「HOTEL RICH」あるいは「ホテル リッチ」などの標章を用いるものは枚挙にいとまがないから、「リッツ」又は「RITZ」は、その識別力が減殺され、希釈化されており、したがって、原告の営業または商品を示す表示として、我が国内において周知性、著名性を取得するに由ないものとなっている旨主張する。

しかしながら、原告以外のものが原告表示又はこれに類似する表示を使用している例があるからといって、以下のとおり、原告表示の周知性に関する前示判断を左右するものではない。

(一)  被告は、(1)マドリッドのリッツ ホテル、(2)リッツ カールトン ホテルズ グループの各地のリッツ カールトン ホテル、(3)バルセロナのリッツ ホテルがそれぞれ「RITZ」を使用し、(4)菓子メーカーの米国法人であるナビスコ社が、我が国において、「RITZ」ないし「リッツ」標章を使用し、あるいはこれを商標として登録している旨主張する。

被告主張の右(1)ないし(4)の事実はいずれも当事者間に争いがないところ、右(1)のマドリッドのリッツ ホテルは、前掲各証拠によれば、原告の前身であるザ リッツ ホテルズ ディベロップメント コムパニー リミテッドにより、一九〇七年に開設されたものであり、後に、英国法人トラスト ハウス フォルテに買収されることになるものの、その後も従前の名称を使用していることが認められるのであって、前記1(一〇)の原告と協力ないし提携関係を結んでいるリッツグループに属するものであるし、右(2)のリッツカールトン ホテル グループは、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記のとおり原告を設立したセザールリッツ及びその後継者がオープンしたホテルであって、のちに米国法人ダブリュ ビー ジョンソン プロパティーズ インコーポレイテッドにより買収されたものの、その後も従前の名称を使用し、しかも原告と右法人との間で、「RITZ」標章の使用に関し、使用許諾のライセンス契約を締結されていることが認められるのであって、同様前記1(一〇)の原告と協力ないし提携関係を結んでいるリッツグループに属するものであり、右(3)のバルセロナのリッツ ホテルは、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、当初から使用が許諾されていることが認められ、また右(4)のナビスコ社による「RITZ」ないし「リッツ」標章の使用については、前掲各証拠によれば、原告が、昭和三〇年、ナビスコ社に対し、「RITZ」標章の使用許諾のライセンス契約を締結したことが認められるのであって、いずれも、原告もしくはリッツ グループ自身による使用というべきものであるか、あるいはその使用を許容されている場合であって、原告と無関係の第三者が使用する場合ではないことが明らかである。したがって、右の点に関する〈書証番号略〉は、前示周知性の判断に何ら影響を及ぼすものではない。

(二) 被告は、「HOTEL RICH」又は「ホテル リッチ」などの標章を用いるホテルがある旨主張し、右使用の事実は当事者間に争いがないが、右標章においては「RICH」又は「リッチ」が要部であるというべきところ、「RICH」又は「リッチ」は、我が国において、日常的に使用され、それ自体として意味のある英語であり、「RITZ」又は「リッツ」と類似しないことは明らかであるから、「HOTEL RICH」又は「ホテル リッチ」の標章の存在は、前示周知性の判断に何ら影響を及ぼすものではない。

(三)  被告は、「RITZ」、「リッツ」又はこれと類似する商標が原告以外の者により多数登録又は出願されている旨主張し、これに沿う〈書証番号略〉(いずれも成立に争いがない。)を提出しているが、その多くは登録が抹消されていたり(〈書証番号略〉)、原告から許諾を受けた者の登録又は出願にかかるものであったり(〈書証番号略〉)、原告が登録異議を申し立てているものであったり(〈書証番号略〉)、その余のものについても原告以外の者がこれら商標権等を有している事実は、前示周知性の判断に未だ影響を及ぼすものではないというべきである。

(四)  被告は、台湾、香港、南アフリカ、インドなどにも「リッツ ホテル」が存在することや、我が国や英国の電話帳には、「RITZ」又は「リッツ」を使用した事業者が散見されることを主張し、原告もこれら事実を争わないが、右の事実をもって、直ちに前示周知性の判断に影響を及ぼすことはないというべきである。

二請求原因2の事実のうち、本件店舗が我が国の一流ホテルであるホテル ニューオータニの本館の二階に位置し、その名称が「THE RITZ SHOP」であること、被告は、昭和五六年二月一九日から、同店舗において、ヨーロッパ諸国からの輸入品も含めた、小物類を販売していることは当事者間に争いがない。

〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」と表示した布ラベルをつけたパンツであることに争いがない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」の表示のあるラベルの付いた包装箱(ピンク色)であることに争いがない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」の表示のある吊り札であることに争いのない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」と「株式会社リッツ」のスタンプが押された紙袋であることに争いがない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」の文字を胸下に表示したTシャッツであることに争いがない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」の表示のあるラベルの付いた包装箱(白色)であることに争いがない〈書証番号略〉、「THE RITZ SHOP」と「株式会社リッツ」のスタンプが押された紙袋であることに争いがない〈書証番号略〉、本件店舗の包み紙であることに争いのない〈書証番号略〉、本件店舗の出入口付近を撮影したものであることに争いのない〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告が、自己の営業を示す表示として、「THE RITZ SHOP」「RITZ」、「RITZ Inc.」及び「株式会社リッツ」の表示を使用し、また別紙目録(一)ないし(四)の表示を看板及び案内板等に使用していること、自己の商品であることを示す表示として、別紙目録(一)ないし(四)の表示を使用していることが認められる。

三次に、請求原因3について判断する。

被告が、本件店舗において、「THE RITZ SHOP」、「株式会社リッツ」、「RITZ Inc.」及び「RITZ」の各表示を使用して営業したことは先に認定したとおりであるところ、「THE」が定冠詞であり、「SHOP」、「Inc.」、「株式会社」がいずれも一般名称を表す語句であるから、被告の使用する右各表示の主要部分が「RITZ」又は「リッツ」にあり、その主要部分と原告の周知表示である「RITZ」又は「リッツ」とは全く同一であるから、両者が類似することは明らかである。

前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、ホテルにおいて、自己のホテル名、あるいはホテル独自のマークを付した高級な香水、化粧品、宝石、衣類等の各種製品を販売するなど、その経営が多角化していること、また一流ホテルにおいても、乳幼児の一時預かり所などの施設設置が要請され、併せて子供用品の販売のニーズもあること、本件店舗の存するホテル ニューオータニには、欧米からの旅行者やビジネスマンが多数宿泊すること、ベビー用品にもいわゆるDCブランドの付された高級品が存すること、等の事実が認められる。そして、原告がスカーフ、セーター等の衣料品をはじめ、シガレット・ケース、財布、時計、紅茶茶碗、ガラス製品等の各種商品を販売していること、被告が本件店舗において子供用衣料品や小物類を販売しており、右商品にはヨーロッパ諸国からの輸入品もあることは、前判示のとおりである。

これらの事実を併せて考慮すると、少なくとも一般消費者において、被告の経営する本件店舗が、原告もしくはリッツ グループと業務上、経済上または組織上、何らかの連携関係のある企業の経営によるものであるとの誤認を生ずる虞があることは否定できないものである。したがって、ホテルニューオータニ内に存する本件店舗において、「THE RITZ SHOP」、「株式会社リッツ」、「RITZ Inc.」及び「RITZ」の各表示を使用して営業した被告の行為は、原告の営業活動及び商品と誤認混同を生じさせるものというべきである。

もっとも、被告は、本件ホテルが世界的に著名で、超一流であり、高い品位とステイタスを備えた世界の代表的ホテルであるとすれば、我が国において一流ホテルであるホテル ニューオータニの中に原告の店舗を出店することなどおよそ考えられないことであるから、営業の主体または商品の出所について誤認混同する虞はない旨主張するが、ホテル業界においても、国籍を超えて協力ないし提携関係を結ぶに至る例があることは、前判示のとおりであり、今日の企業の経営における複雑な業務上、経済上または組織上の実態に照らして考えると、必ずしも被告の右主張のように断定することはできないから、誤認混同に関する前示判断を左右するものではない。

また、被告は、原告が我が国においてはホテル営業をしておらず、商品の販売態様も通信販売であるのに対し、被告はホテルの一角の狭い店舗で店頭販売する一個人であるから、原告と被告とは業態を全く異にし、競業関係になく、営業の主体または商品の出所について誤認混同する虞はない旨主張するが、営業規模の大小や販売形態の相違をもって、直ちに競業関係にないと断定することもできないから、かかる事情があるからといって、誤認混同に関する前示判断を左右するものではない。

四請求原因4について判断するに、被告が本件店舗を開設する当時、原告の略称である「RITZ」又は「リッツ」が、原告の商品表示または営業表示として、ホテル関係者の間で周知、著名であったことは先に判示したとおりであり、このような状況下で、被告は、前記のとおり、一流ホテル内でヨーロッパからの輸入品を含む小物類を販売する本件店舗を開設したうえ、営業表示及び商品表示として「THE RITZ SHOP」等の表示を使用したものであって、被告は、故意又は過失により、右行為に及んだものと認められ、被告は、原告が被告の行為により被った損害を賠償する義務があるというべきである。

被告は、自己の氏名の「律子」の愛称である「りっつ」の呼称をそのままドイツ語風に表記して店名として選択使用したものにすぎず、原告の標章であることなどまったく認識していなかった旨主張し、同人の陳述書(〈書証番号略〉)にはその旨記載されている。

しかしながら、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件店舗を開設する約九年前から同じホテルニューオータニでベビールームを開設していたこと、欧米の友人や取引上の知人も多く、書簡等の交換や交誼も少なくなかったこと等の事実が認められるのであって、この事実からすると、右陳述書の記載部分は必ずしも採用することができないが、仮に右陳述書の記載部分のとおりであったとしても、一流ホテル内でヨーロッパからの輸入品を含む小物類を販売する店舗を開設しようとする以上、自己の営業及び商品表示が既に当時周知であった原告表示に類似しないように調査検討すべき注意義務があったのであって、被告がこのような注意義務に反していることは明らかであり、右主張は理由がない。

五請求原因5について判断するに、先に判示した事実によれば、原告が、その伝統と格式においても、現在の世界のホテル業界のなかでも一流のホテルであり、その販売する商品も、原告の商品として高い評価を受けていることが認められ、〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、原告の「RITZ」又は「リッツ」標章が最高の品質とサービスを意味するものとして、ホテル営業のみならず、販売される原告商品についてもその水準が保たれるように意を払っていること、しかしながら、右標章の有する極めて高級なイメージもしくは顧客吸引力などの機能、価値を無断で借用しようとする事業者が後を絶たず、原告は、長年にわたって培ってきた右標章の高級なイメージが品質が低い商品や好ましくない商品に用いられることにより、右標章の有している前記機能、価値を減殺されることに重大な関心をもち、右標章の有する前記機能、価値を守るため、世界の各国において、警告を発し、商標登録に対する異議申立てあるいは訴訟を提起するなどして知的所有権上の保護を求め、相当の費用を費やしていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定した事実によれば、原告は、原告の「RITZ」又は「リッツ」標章を我が国の一流ホテル内の小売店舗において使用されたことにより、原告が同ホテル内に出店したという印象を与え、これにより、最高級の品質とサービスにおいて世界でも一流であるという右標章のイメージを侵害されたと認められるのみならず、他人がこれを使用する時は、その標章の有する名声や評価、顧客吸引力などの利益を不当に利用し、原告に損害を与えたものとい

別紙商標目録(一)

1  出願日

昭和五四年一一月一五日

2  出願番号

五四―〇八七〇八九

3  出願公告日

昭和五七年一一月一八日

4  出願公告番号

五七―〇七一四六五

5  登録日

昭和五八年八月三〇日

6  登録番号

第一六〇八三一四号

7  商品の区分

第一七類

8  指定商品

被服(運動用特殊被服を除く)

布製身回品(他の類に属するものを除く)

寝具類(寝台を除く)

9  商標の構成

別紙のとおり

別紙商標目録(二)

1  出願日

昭和六〇年三月一日

2  出願番号

六〇―〇一九四二九

3  出願公告日

昭和六三年一二月二一日

4  出願公告番号

六三―一〇五二六〇

5  登録日

平成元年八月三一日

6  登録番号

第二一六四九七二号

7  商品の区分

第一七類

8  指定商品

フランス製の被服(運動用特殊被服を除く)

フランス製の布製身回品(他の類に属するものを除く)

フランス製の寝具類(寝台を除く)

9  商標の構成

別紙のとおり

別紙

わざるを得ないから、原告は、被告の行為により営業上の利益を害されたといわざるを得ないが、その損害は、いずれも無形の損害であって、その性質上、一義的にその金額が算出されうるものではないものの、原告の営業内容、宣伝広告、我が国における営業販売活動、被告の営業内容、事業規模、本件標章の使用期間等の諸般の事情を考慮すると、その損害額は金一〇〇万円が相当であると認められる。

また、原告が原告訴訟代理人の弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、本件訴訟の経緯、認容額等に鑑み、被告の行為と相当因果関係にある損害として被告に賠償を求めるべき弁護士費用の額は金二〇〇万円と認めるのが相当である。

六被告は、不正競争防止法二条一項四号に基づき、昭和五六年二月一九日以降の名称使用を内容とする先使用の抗弁を主張するが、前記一で判示したとおり、原告の「リッツ」又は「RITZ」の表示は、昭和五〇年代前半、遅くとも被告が被告表示の使用を開始した前日である昭和五六年二月一八日には既に周知となっていたと認められるから、被告の先使用の抗弁は、その余について判断するまでもなく、理由がない。

七よって、原告の本訴請求は、差止請求にかかる部分については理由があるからこれを認容し、損害賠償請求にかかる部分については、前記損害金合計三〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成元年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、その範囲でこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して注文のとおり判決する。

(裁判長裁判官一宮和夫 裁判官足立謙三 裁判官長谷川浩二は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官一宮和夫)

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